お気に召すまま





――腰2――




「しかしまあ、なんとか保(も)ったな」
マリモがオレの腰を触りながら、よしよしと頷いている。
「ああ、ほんとに。おかげさンで助かった。ありがとうございマシタ」

―――昨日もおとついも、この手が待っていてくれる、そう思うだけで、すげえ安心だったもんな。

サンジの口からふぅーーっと大きな息が出て行く。
最近じゃベッドにあがった時点で、完全にお任せモードでマリモに体を預けるようになっていた。

先生が手を動かしながら
「・・・今度」
「・・・んー?」
返事はしてるものの、すでにサンジの意識は、半分あって、半分ない。
「見に行っても、いいか」

―――え

沈みかけた意識が急速に引き戻される。
うつ伏せの状態で目をぱちくりとさせた。


―――このヒト、いま『見に行く』っつった?
予想だにしなかった問いに、伏せていた顔を持ち上げ、マリモを振り返ってみた。

「違ったか?」
「え・・・いや、え?」

「当たりか?」
「・・・や・・当たりっつーか―――え、なに、知ってた、の?」

「いや。体つきとか姿勢とか、歩き方で、なんとなく。そっち方面かな、と」
「・・・すげえな。別に隠すつもりはなかったんだけど―――」

「ああ、わかってる。ただ、これからはなんかある時ァ言ってくれ。

その方がメンテナンスの予定が組みやすい。遅いとか、悪いとか、思わなくていいから」
「それは―――オレは、助かるけど」


―――迷惑じゃねェのか・・・

サンジの沈黙を、遠慮の表れと察すると

「お前がちゃんと仕事できるようにするのが俺の仕事。

目の前にやるべき患者がいるのに、しないでどうする。ほら、こことか」

ぎゅっとツボを押された。

「いって!」

体が飛び上がる。

「な?」
にっと勝ち誇るマリモの顔が小憎たらしい。それでもそんな言葉をもらえたことが、どこか“特別”な

気がして面映ゆくなった。サンジがぽふんとベッドに顔をもどす。

「・・・サンキュ」
床に向かって言った言葉は小さかったけど、温かな手が、ポン、と腰に置かれた。


「今回、痛みは出てないが、筋肉の張りがけっこう残ってる。オイルで緩めながら流す。いいか?」
「ん、任せる」
「Gパン―――」
ちょっと緩めてくれ、というようにベルトをちょいちょいと引っ張られた。
「ん」
寝たままで腰だけ浮かせて、ごそごそバックルを緩めていると、マリモが、あ、と声を出した。
腰か・・・と呟いている。
ん?と見れば、顎に手をあててこちらをじーっと見ている。

「邪魔なら脱ぐけど?」
「いや。あー・・・・・・パンツ、はき替えるか?」
「・・・なんで?」
「紙パンツならあんぞ。でなきゃパンツ脱いどくか」
「だから、なんで!??」
「腰、触るだろ」
「触るから、なに!?」

―――パンツ脱ぐ意味がワカりません。センセイ!

「お前のためなんだが」
「オレのためってんならパンツは穿かせとけ!」


ズボンとベルトをぎゅっと掴んでサンジがあくまで死守する構えを見せた。
「・・・・・・まあ、大丈夫か」


―――大丈夫かってなんだ。イヤ待て。お前はそうやってレディの大事なおパンツをはぎとって

きたのか?!いくら役得とはいえ、コトと次第によっちゃオレが制裁を加えてやらんでもないが!!

ゴゴゴと炎が燃えたつとこへ、ああ、オイル付くから上は取っといたほうがいいぞ、と言われ、結局

起き上がってぽいぽいとシャツを脱衣カゴに入れる。




「ちょっと下げるぞ」
いましがた死守したズボンとパンツを一緒に掴まれ、ガっと下げられた。

―――うお。半ケツ出てる気がする。いや、絶対、出てる。
ああ、レディたち。貴女のためのサンジのプリケツは、今マリモンに犯されようとしています―――
なんて、誰ともわからぬどこかの女神に祈りを捧げていると、腰とか背中にオイルを塗られて、

うひゃ、となった。温かい手で満遍なくオイルを伸ばされて、いつぞやの手アイロンを思い出す。

―――腰とか背中とか、あの手の熱で伸ばされたらきもちいいんだろなー
あー、このオイルの匂いもいいんだよなーとか、ちょっと期待してしまう。

オイルを塗り終わると、マリモの手の平がぴたりと腰に沿う。
手を翼に広げ、親指を背骨に合わせて、腰の下の方からじわーっと上へ上がってくる。

―――おおおおお・・・!
手の圧と熱が。体を押さえ込み、包むようにして移動してくる。
肩甲骨あたりまでくると、すぅっと抜けていってまた腰に戻ってくる。
同じコースを辿りながら、微妙に手の向きや指の配置を変えてほぐされていく。

―――あー、もー・・・
気持ちよさに、あっちもこっちもされたい気分になってくる。オレもだいぶマリモ菌にやられてきた。


「そういやァ、こないだのお前の手―――」

「・・・んー?」


「なかなか“あたり”が良かった」
「―――あたり?」

「触ったときのタッチがな。なんてェか―――品があった」
「品?なんだそりゃ」
思わずサンジがケケッと笑った。


「手にもいろいろあるんだよ。ツボ、はずしてんのに、『ココでしょ?ココでしょ?』って的外ればっか

押す奴とかよ。そんな奴に触られたらたまったもんじゃねェ。腹立ってくンぞ。そこじゃねェつってんのに

『いや、ここが』とか言って、自分ひとりで納得してよ。肝心なとこはほったらかしだ。で、結局治せねェ。

阿保かと思うぜ」

「はは。じゃ、オレは合格か?先生」
「ああ。転職する時ァ言え。面倒みる」


ううむ、とサンジがちょっと考え込んだ。
「・・・・・・レディ専用・・・」
冗談半分本気半分で出した答えに、そうだな、と相槌が返ってきた。
「いいんじゃねェか。上手い手に触られたらそれだけで満足する。

ヘンな話、治療のやり方見てっと、そいつがどんなHすんのか大体わかるしな」
「・・・へ?」
「当たり前だ。相手のココってところをうまく見つけて攻めるんだからな。治療の巧い奴ァHも巧い。
治療のヘタな奴ァ、Hもヘタだと思って間違いねェ」


「・・・へえ」



―――・・・それじゃ、お前は巧いのか



                                       (2013.03.12)



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